多汗症とは
汗の量は、人によって異なり、労働やその他の生活条件によっても、季節によっても違ってきます。 しかし、これらの条件とは関わりなく、ひどい汗かきの人がいます。いわゆる多汗症といわれるものです。
多汗症には、全身に大量の汗をかくタイプと、体の一部分に限って汗が多い局所性多汗症のタイプがあります。 全身性多汗症は、しばしば結核、急性リウマチ、バセドー病、女性の生殖器障害などにみられます。ただし、現実には、これらの病気とは関係なく、ただひたすら汗が出るという場合があります。一般的な全身性多汗症については、その原因もわかっていないのが現状ですし、病気としてもとり扱われていません。
部分的に汗をかく局所性多汗症は、全身性のそれとはちょっと事情が異なってきます。心身に何らかの異常が認められる時にみられます。
汗をかきやすい部所は、頭髪部、額、こめかみ、鼻、首、ワキの下、手のひら、手の背側と指の間、陰部、足の背側と指の間、足の裏などです。
こう列挙してみますと、局所性多汗症は、二つのタイプに分けられることがわかります。
一方は、手のひらや足の裏などアポクリン腺が存在せず、エクリン腺の多い部所であり、もう一つは、頭、ワキの下、陰部などのアポクリン腺の多い部所です。
手のひらの多汗は、手掌多汗症(足の裏の場合は足掌多汗症)と呼ばれています。俗に「手に汗を揺る」といいますが、その言葉どおり手に汗を握るような状況、すなわち精神的な興奮や緊張によって起こります。興奮が一段と高まると、手足だけではなく、顔やワキの下、さらには全身に汗をかくようになります。
手掌多汗症の人の多くは神経質で、いったん多汗の症状が始まると、それを気にしてさらに分泌が増大する、ということを繰り返します。
しかし、ニオイという点からすると、エクリン腺から分泌される汗は、99~9 9.5%が水分で、0.5~1%が食塩を中心に乳酸、尿素などの固形物ですから、よほど不潔にしていない限り、ニオイはしません。
無責任ないい方をすれば、気を大きくもって、汗のことなど気にしないのが最良の薬といえます。
しかし、ワキの下の多汗(腋窩多汗症)は、アポクリン腺からの発汗も多いので、強いニオイ(ワキガ臭)の原因になりやすく、衣類などに色がつきやすくなります。
アポクリン腺から出る汗は、エクリン腺のそれとは異なり、何種かの脂質、中性脂肪、脂肪酸、コレステロール、鉄分、蛍光物質、色素などが多く含まれており、発汗後、分解・変質してニオイを発します。この時、鉄分が重要な働きをすることもわかっています。ワキガのニオイは鉄分のニオイである、といい切る学者もいるほどです。
衣服にしみつく色は、色素、鉄分などであり、洗濯してもなかなか落ちません。これも悩みです。
ワキガとの関係でいえば、ワキガの人は、腋窩多汗症を伴うことが多いようです。だからといって、多汗症の人がすべてワキガかというと、決してそんなことはありません。ワキガは、アポクリン腺から分泌される汗なくしてはありえないからです。
多汗症の人がワキガ体質なのかどうかは、よく耳アカがその判断材料につかわれます。耳の中はアポクリン腺が多く分布しているので、アポクリン腺からの汗の量が多ければ、耳アカはいつもジュクジュクして湿っています。耳アカがいつも軟らかく湿っている人は、いわゆるワキガ体質とみてよいでしょう。
私の治療体験によれば、局部的な多汗症は、次のように、汗をかく部位によって、体の不調がどこにあるかを教えてくれているように感じています。もちろん、確定的なものではないのですが、多分にその傾向はあります。
- 頭部…肝機能障害、くる病
- 首から上…虚弱体質、体力不足、神経過敏
- 手掌・足掌…神経過敏、神経疲労、慢性便秘、高熱性疾患、蓄膿症、リウマチなど
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背…精神不安
局所性の多汗症の漢方薬
〈いんちんこう湯〉
一般には肝炎の薬ですが、上腹部が張って、胸が苦しく、口が渇き、便秘気味で、頭部に発汗があるような、内に熱がこもったような場合に用いるとよいでしょう。〈しし柏皮湯〉なども、同様の症状によいでしょう。
〈柴胡桂枝乾姜湯〉
体力がなく、疲れやすく、動悸、息切れ、微熱、寝汗などをかき、神経質で、首から上に汗(頭汗)をかく人に用います。
〈竜胆潟肝湯〉
体力は比較的あるが、膀胱炎、尿道炎など、泌尿、生殖器に炎症を起こしやすく、排尿痛や残尿感があって、尿が濁ったり、腰下が多く、手掌・足掌に汗をかく場合に用います。
脂汗の項に記した〈大承気湯〉〈荊芥連ぎょう湯〉なども、手掌・足掌の多汗に効果があります。
〈女神散〉
自律神経失調症、更年期障害の薬で、のぼせ、めまいなどのある頑固な血の道症で、動悸、精神不安、頭痛、頭重があり、背中がかっと熱くなって汗をかく時などに用います。
全身性の多汗症の漢方薬
〈防已黄ギ湯〉
多汗症の代表的な漢方薬。色白で水太り、筋肉が軟らかく、疲れやすい、体が重くむくみやすい人などに用います。
〈補中益気湯〉
全身、特に手足に倦怠感があり、疲れやすく、胃腸虚弱、食欲不振、食物に味はないが温かいものを含み、口の中に唾液(白い泡沫)がたまりやすい人で、微熱があって、汗をかきやすく、盗汗もある人に用います。
〈十全大補湯〉
肺結核や慢性病などで、全身の衰弱がひどく、胃腸虚弱、貧血、手足の冷え、下痢症状などがあって、低血圧症、貧血症を訴え、盗汗、自然発汗ともに激しい人に用います。
〈加味逍遥散〉
疲れやすく、手足がだるく、肩こり、頭痛、めまい、不眠、いらいらがあり、特に午後になると上半身がかっと熱くなり、顔面が紅潮し、背中がゾクソクしたり熱くなったりして、汗をかいたりする時に用います。
その他、風邪をひいて、なかなか全身多汗がとれないような時には〈桂枝湯〉〈柴胡桂枝湯〉などがあり、暑さ負け。日射病時の多汗には〈白虎加人参湯〉〈清暑益気湯〉、喘息や激しい咳込み時の多汗には〈麻杏甘石湯〉〈五虎湯〉などがあります。子供の多汗、夜尿、口渇には〈六味丸〉がよいでしょう。
多汗症については、その時々の症状、疲労度、胃腸の強弱などによって、漢方薬も多種あります。肺に疾患のある時には、じっとしていても汗をかくことが多いなどの特徴もあるため、その方面に詳しい医師、薬剤師に相談するとよいでしょう。
それにしても、尿などは専門の検査システムが確立されていて、尿検査で多くの疾患を見極めていますが、汗ではそういうことが行われていません。汗も専門的に分析していれば、尿におとらぬチェック・ポイントになるはずですが、今だ研究されず、注目もされていないのは残念です。
- 多汗症とは
多汗症には、全身に大量の汗をかくタイプと、体の一部分に限って汗が多い局所性多汗症のタイプがあります。 全身性多汗症は、しばしば結核、急性リウマチ、バセドー病、女性の生殖器障害などにみられます。 - 盗汗(寝汗)とは
寝汗は文字どおり、寝ている間にかく汗のことです。とはいっても、人間は就眠時には大量の汗をかきます。もしそれが、サラサラとした運動後にかくような汗なら問題はないのですが、粘つこい汗が頭部、首から胸の周り、腰から股の周辺、膝から足へかけて余計に出るようだと注意する必要があります。 - 脂汗・冷汗とは
脂汗は、脂肪体質や化膿性体質の人がかきやすい汗です。それについては何ら異常ではないのですが、強度の便秘、痛みや高熱に耐えている時などにも脂汗をかくことがあります。